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株式会社クレイグ・コンサルティング

代表取締役 小河 光生

早稲田大学卒業後、大手自動車関連メーカーを経て、1991年米ピッツバーグ大学経営学修士号(MBA)、同年株式会社三和総合研究所に入社。2000年にPwCコンサルティングへ転じる。2004年独立して株式会社クレイグ・コンサルティングを設立。代表取締役に就任。

主な著書に「ISO26000で経営はこう変わる」(日本経済新聞出版社刊)

CSRビジョンの策定

一般的に、なぜ企業はCSRを行うのか、という問いは、単純ではあるが常に深く思考し続ける必要があり、これを怠るとCSRは企業経営から乖離し始めてしまう。企業にとってCSRを行う大きな理由のひとつは長期的目線でサステイナブル経営を行うことにある。具体的には2030年程度の目線で、社会的、環境的な変化を予測、それが当該企業のバリューチェーンにどのような影響を与えるかを読み取り、影響への対応を企業に促すことにある。

この観点からアドバンテストのCSRレポートを検討すると、CEOメッセージでは「100年先の社会においても、信頼され、必要とされる企業であり続けたい」と述べており、アドバンテストがCSRに取り組む理由に触れている。100年先の社会環境を見通すのは難しいが、20-30年程度先を推測することは可能である。アドバンテストのバリューチェーン上の競争優位に大きな影響を与える項目を考え、そこに規制やソフトローがかけられる可能性はないか、人口動態などから考えられる将来の社会課題に対して、アドバンテストの計測技術で解決がはかれないか、CSRにはこのような視点が具体的に求められる。いいかえれば、アドバンテストのCSRゴールや方向性はどちらに向かうかをより具体的に記述して欲しい。

これまでCSR活動としてどのようなことに取り組んできたのかという点は上手にまとめられているので、今後CSRをどのような内容で進めていくのかという点を掲載し、あわせて定量的な目標値を示すことが、アドバンテストのCSRを経営の重要な一側面とするのに効果的と考える。

CSRのグローバル化対応の強化

アドバンテストは2011年にVerigy社を買収し2012年に完全統合を果たしている。これにより半導体テスタシステム市場でのトップシェア企業、かつ海外売上比率が9割以上と、名実ともにグローバル企業となった。したがって、CSRレポートの掲載内容もグローバル対応の進捗がどこまできているかという点に留意したい。たとえば、グローバルで注目度の高い人権課題において、人権教育の実践やサプライチェーンでの人権配慮が書かれているが、日本を中心とした記述内容にとどまっている。グローバルでの対応をどのようなスケジュールで、いかに進めていくかを追記していただきたい。

さらに、CEOメッセージでは「世界トップの市場シェアを確保したということは、社会に対する責任がより大きくなった」と述べている通り、社会的責任の大きさに対応できるようCSR推進体制を強化していく必要があると考える。たとえば、主要なステークホルダーとのエンゲージメントを通して、自社の取り組みを修正していける体制を作り,社外からどのような指摘をされたか、アドバンテストはそれにどのような対応をしているか、という点をCSRレポートに開示することが望ましい。グローバルでのCSR課題はますます複雑化しそのまま経営リスクにつながる。ステークホルダーの目線を巧みに取り入れながら、独りよがりの考えに陥らないような工夫が欲しい。

マテリアリティの検討

アドバンテストはISO26000のフレームを採用し、7つの中核主題をベースとして自社の活動を定義している。これは早期からグローバルスタンダードを取り入れ、自社の活動のレベルアップを志向する動きであり、高く評価できる。

一方で、網羅性を追求するだけでなく、課題に優先順位をつけ、何をどの順番で取り組むのか、という動的な内容に進めていただききたい。この優先順位が高い課題をマテリアリティと呼ぶ。マテリアリティを特定していくためには、グローバルでの社会的課題にアンテナを高くし、アドバンテストのステークホルダーがどのような期待を持っているかを常に把握する必要がある。

CSRビジョンの中でマテリアリティを明確にして、その解決に至るスケジュールと手段を講じていく、CSRレポートはその進捗報告、という流れがアドバンテストの課題となろう。それが「真のグローバルカンパニー」へ成長するというアドバンテストのチャレンジの柱になることを期待したい。