第三者意見
株式会社クレイグ・コンサルティング
代表取締役 小河 光生
早稲田大学卒業後、大手自動車関連メーカーを経て、1991年、米ピッツバーグ大学経営学修士号(MBA)取得。同年、株式会社三和総合研究所に入社。
2000年にPwCコンサルティングへ転じる。
2004年、独立して株式会社クレイグ・コンサルティングを設立。代表取締役に就任。
主な著書:「ISO26000で経営はこう変わる」(日本経済新聞出版社刊)
アドバンテストのCSR思想
アドバンテストのコアテクノロジーは計測・試験技術であり、このテクノロジーを用いて社会に安全・安心を提供することが同社の事業目的である。
計測・試験技術を磨き続け、この技術力をもって社会課題解決につなげることこそがアドバンテストのCSRの中核的思想といえる。半導体検査装置で培った技術を、より広い医療分野、環境・エネルギー分野に応用して、安全・安心を提供するという松野社長のトップメッセージもこの文脈の中で理解することができる。
例えば、先端の計測技術を使って現在の疾病診断に革新を持ちこむことが可能だ。本レポートでも「ヘルスケア分野への貢献を目指して」で書かれているが、「光超音波イメージング・システム」という最新のテクノロジーを使って、人間の皮膚下の組織がどのような状況にあるかを切開せずに確認することができる。この技術を使えば、糖尿病患者の手足の壊死の有無を検査することができる。これまでは医者の触診、経験と勘に頼った診断に、こうしたテクノロジーを使うことで病に苦しむ人に安心を提供することができる。このように事業を通した社会課題の解決にこそ、アドバンテストのCSRのもっとも大きな特徴がある。
ステークホルダーとの対話・協働の強化
昨年度のトピックスの中では同業のベリジー社との経営統合がもっとも大きなものだろう。ベリジー社との統合によって対象市場でのシェアは49%まで高まった。この統合で名実ともに業界のリーダーとなったわけであるから、新生アドバンテストは、これまでよりも一段高い社会的責任を負うことになる。例えば、アドバンテスト自身が高い意識でCSRを実践することは当然として、業界のリーダーとして、取引先や販売先にも率先してCSRの指導・啓蒙をして行くことが求められるだろう。また、統合によりグローバル化がいっそう進むことになるため、グローバルリスクへの備えも高いレベルで行わなくてはならない。
グローバルリスクに備えていくためには、ステークホルダーと対話を繰り返し行うことがカギとなる。もともとアドバンテストはステークホルダーとの対話は不得意ではない。たとえば、群馬R&Dセンタには広大なビオトープがある。環境活動の熱心さも同社の強みの一つである。このビオトープには貴重な野鳥や水生昆虫がおり、生物多様性に一役買っているのだが、日本鳥類保護連盟と提携し、ビオトープの保全に役立てているし、地域の子供たちを招いて水生昆虫の観察会などを開いている。地域社会というステークホルダーと共生していくのだという意思が強く出ていることがわかる。また、アドバンテストの製品は海外にも広く輸出されているが、梱包材はリターナブルになっており、納品後顧客から梱包材を回収している。このようにお客様と一緒に環境活動を推進している点も注目に値しよう。
こうしたステークホルダーとの対話や協働をより強化していくことが必要だろう。また、その実績をCSRレポート上で開示して、どのようにステークホルダーの期待にこたえていくか、その思想・方針も含めて開示して行くことが課題となる。
CSRのゴール設定とロードマップ作りへ
CSRビジョンを策定して行くことも喫緊の課題となろう。今回のレポートはISO26000の7つの中核主題をベースに作成されており、同社がグローバルに対応したCSRを実践していこうという強い意思を感じる。一方で、ベリジー社統合後、新しい時代に入ったアドバンテストはCSRのゴールをどのように考えているかということを明らかにすべきではないか。いいかえれば、CSRを行う必然性をいかにわかりやすく設定し、アドバンテストらしいCSRとはどのような内容なのかという問いに具体的に答えていく必要がある。このゴールがはっきりしないと個々の活動のPDCAが図られず、またCSRへの投資成果を測定することができない。いつまでに何をどの程度まで行うことが目標であるかを考え、そこにKPIを策定していくことが肝要だ。CSRの現状と課題を明確にステークホルダーに提示し、より高い目標にチャレンジしていく段階に来ているのではないかと考える。
グローバルレベルで人材活性化を
さらにCSRビジョンは、アドバンテスト最大のステークホルダーである社員が等しく理解できるものである必要がある。社員が理解していないものは、その先のステークホルダーには伝わらないからだ。アドバンテストはグローバル統一の人事制度を2012年4月から導入している。グローバルにおいても、社員のやりがい、働きがいが企業競争力に直結することをよく知っている証左である。同様に社員がアドバンテストのCSRビジョンを理解し、それを実践することで自社を誇りに思い、自らの仕事を誇りに思う環境を実現することを目指していきたい。社員の経験やノウハウを社会のために活用し、世界からありがとうと言われる企業を目指していく。そのようなわくわく感あふれる企業になることが可能な会社であると期待している。